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武蔵野独り暮らし、日々雑感。
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 以下は2006年08月17日に、夏休みスペシャルとしてmixi日記に連載として綴ったものです。
 最近Twitterで知りあい懇意とさせていただいているかたより「ぜひ読みたい」とのリクエストをいただいたため、ここに再掲するものです。全7回の6回目です。
 原文ママのため、誤字脱字もそのままとします。

◎第1巻「輝ける10年間」(→)
◎第2巻「カギっ子を包むものたち」(→)
◎第3巻「団地商店街」(→)
◎第4巻「駄菓子屋讃歌」(→)
◎第5巻「露天商とぼく」(→)



 一人っ子は、暇を持て余すということがない。

 という話をとあるご婦人としたことがある。彼女も一人っ子、ぼくも一人っ子。幼少の頃から独りであることがあたりまえで、静かに、独り遊びの楽しみを見つけることが癖づいているため、たとえば何のアイテムも持たずに独り長時間電車に乗っていたりしても、何か楽しみを見つけて厭きることがない――といった話だ。もちろんだから一人っ子がいいとかいう話ではなく、一人っ子にはむしろ弱点のほうが多いと当事者としてぼく個人は思うが、「でも、そういうものだよね」と、兄弟姉妹をそれぞれ自身の子供として育てた経験もある彼女とぼくとは、その子育て中の観察も踏まえて比較しながら、大いにうなずきあったものである。「孤独が苦にならないよね」と。

 そしてぼくにとって「武里団地」での暮らしは、それをよりいっそう強くインプリンティングされた空間でもあった。「孤独を楽しめる」ことを。

 これまでにもさんざん記したように、ことに武里団地時代、母子家庭に育ちながらもたくさんのともだちに恵まれ、たくさんのおとなたちからの愛情をたっぷりと浴びて育ったぼくは、けっして孤独な少年ではなかった(そしてそれはおそらく、時代や空間が生み出した、一種の奇跡だったのであろうということも記した)。が、いっぽうで玄関扉ひとつ閉めてしまえば外部と隔絶される団地の構造、そしてウチはその最上階である5階であったということは、好むと好まざるとに関わらず、物理的に孤独をいや増したはずである。

 そこは、静かな空間であった。

 また、ぼくは物心ついたときから「ぜんそく」があったため、数ヶ月に一度学校を休んだ。おふくろは勤務で不在、いやおうなしに独りの昼間である。そんなときぼくはむさぼるように物語を読み、図鑑を眺め、絵を描き、テレビを観、音楽を聴いた(おふくろの仕事の関係で、教材に準ずるものはほとんど自由に買ってもらえたのである)。そしてときに5階の窓から、ちょうど裏にあった広場で草野球などに興じるともだちたちを眺めた。陽射しに眼を細め、風に身を晒し、雲を追い、雨音に耳を傾け、近くをゆく電車の音に遠くへの憧れを抱いたりしながら。

「ぜんそく児って、自分を見つめることをはじめるのがほかの子供にくらべて早いと思う」というのは上記と同じご婦人の台詞だが(彼女はぜんそく児の母である)、たしかに横になって眠ることもできない発作のときは、そんな感じになる。苦しくて苦しくてしょうがないのだが、同時にいろいろなことを考えるのだ。「死」も含めて。そしてぜんそくというのはそうでない人は年がら年中喘鳴(ぜいめい)があって苦しがっているものだと思っていることが多いが、そうではなく、発作さえ治まるとまったく普通に(場合によってはそれ以上に)元気に飛び回れるようになるのが、多くのぜんそく児の姿なのである。実際ぼくも二三日寝込んだあとはけろっとして、翌日から元気いっぱいに走り回っていた。

 それは自分の意識下に常にある、変化に富んだ「波」のようなものだ。そしてぼくの中では当時の、扉を隔てて「内」と「外」、「計画都市」と「田畑」、「合理性」と「人情」といった対立するもの同士が奇妙に共存していた、これまで語ってきた昭和40年代の武里団地と、奇妙にシンクロしている。

 いずれにせよ悪しき意味での孤独が語られることの多い団地という空間で、孤独までも味方につけ、それを楽しむことまで身につけることができたぼくは、本当にしあわせだったと思う。それはきっと当時の武里団地が、この孤独の向こう側にはやさしいものたちがいっぱいあることを安心して信じていられるようなところだったからなのだろうと思う。

 いまはなき団地内の東武ストアでいつもかかっていて、大好きだった曲。明るさとさびしさの一体感が何ともいえない心地よさを誘う曲。中学になってポピュラー音楽に目覚めたぼくにおふくろが何も考えずに買ってきてくれたオムニバスアルバムではじめてタイトルを知り、大いにうなずいたその曲は、『雨にぬれても』だった。



 ……というわけで次回こそ、完結編(かな?)



 最終回第7巻「SOMEDAY」は近日掲載予定です。

【追記】アップしました。(こちら→)

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